市野さんとの、久しぶりの再会
この日いちばんの目的は、市野弘さんに会うことだった。NPO法人和歌山保健科学センター(健生わかやま)の理事長であり、「和歌山県健康生きがいづくりアドバイザー協議会 」の代表、そして「いわでボランティアネットワーク」を主宰される方。令和6年度の内閣府「エイジレス章」を受章された。
設立20周年記念シンポジウム「人生は二幕目がおもしろい」以来の再会だった。突然の連絡だったにもかかわらず、市野さんは滋賀の国松先生がそうしてくださるのと同じように、あたたかく迎え入れてくださった。前日の土曜日には、健生西日本のブロック会議でお二人がご一緒だったと国松先生から伺って知った。同じ志でつながる人たちの輪のなかに、自分も連なっていることが、なんだかありがたかった。


岩出市が設置する地域交流・憩いの場「ふらり図書館 あかがい」では、市野さんと並んで写真に収まった。そして見せていただいたのが、新たな試みである第3号図書館(軽トラック)を使った移動式の図書館だった。荷台には絵本が整然と並び、人形やのぼりが楽しげに揺れている。本のある場所を、人のいるところへ運んでいく。待つのではなく出かけていく、その発想に目からうろこが落ちた。いわでのボランティア活動はどれも多岐にわたり、聞くたびに新しい気づきがあった。昔話から、これからのことまで、本当にたくさんの時間をいただいた。


ご自宅にも招き入れてくださり、さまざまなお話を伺った。不思議なことに、その時間のなかで、品川の松田先生にご自宅へ招いていただいたときのことが、ふっと浮かんだ。心惹かれる人たちには、何か共通するものがあるのかもしれない。和歌山の市野さん、滋賀の国松先生、品川の松田先生。いつも声をかけてくださる辻理事長や京極先生など。振り返るほどに、自分は本当に縁に恵まれてきたのだと思う。
2019年の健生全国大会(滋賀)で行われた琵琶湖上での懇親会で踊った徳島の阿波踊りをご一緒したあのとき背中を押していただいた感覚は、今もなお、後ろからそっと支えられているように残っている。歩けばそこに縁が開ける、甘露寺の言葉を自分なりに受け止めた言葉がまた胸に戻ってきた。
にじぞらcafe、人が行き交うあたたかい場所

帰る前に連れて行っていただいたのが「にじぞらcafe」。古民家の梁と畳、籐のランプの灯りがやわらかい店内で、市野さんおすすめのチーズケーキをいただいた。なめらかなチーズに、ベリーのソースとミントが一筋。

人が自然に行き交う、あたたかい場所だった。針灸の併設や、招き猫の絵手紙、店主の人柄がにじむしつらえ。壁にはも貼ってあって、これもまた気になった。道場のご指導もいただき(笑)、笑い声の絶えない時間だった。





和歌山へ向かった。紀の川市役所でのフレイル予防の視察が、この日の出発点だった。庁舎の脇では蓮が静かに花を開いていて、薄紅の一輪が、緑のなかでまっすぐ上を向いていた。泥のなかから茎を伸ばし、汚れひとつまとわずに咲くその姿は、年齢を重ねてなお「健康に、自分らしく生きる」というフレイル予防の願いそのものに見えて、しばらく足を止めた。


足を延ばした根来寺では、国宝の大塔が静かに立っていた。1547年に完成したと伝えられる、日本最大級の木造多宝塔。一辺約15メートル、高さ約36メートルの堂々たる姿は、戦国の兵火をくぐり抜けて今に残る。広い芝の境内に身を置くと、長い時間に耐えて立ち続けるものの強さが、そのまま伝わってくるようだった。

そして甘露寺(鬼滅の刃キャラで有名な)。この寺の山門前、掲示板にこんな言葉が書かれていました。。
転んだら立ち上がればよい
立ち上がったら歩けばよい
歩けばそこに道が開ける
まるで自分のために置かれていた言葉のようで、思わず立ち止まった。転倒も、立ち上がることも、歩くことも、フレイル予防の現場で日々向き合っているテーマそのものだ。けれどこの言葉が語っているのは、身体のことだけではないのだろう。転んでも、また歩き出せばいい、その当たり前のことを、人はときどき誰かに言ってもらう必要がある。
蓮の花、国宝の塔、山門の言葉、再会、移動する図書館、一杯のコーヒー。バラバラのようでいて、すべてが人と人をつなぐ一本の線でつながっていた一日だった。転んでも、立ち上がって、また歩けばいい。そうして歩いた先で、こうしてあたたかい人たちと出会えるのだから。